囲炉裏の思い出

四角く切り抜いた床の一角に灰を敷き詰め、薪や炭を燃やして暖房や炊事に使われる囲炉裏は、日本の伝統的な家屋にあります。 私はこの囲炉裏に2度出会ったことがありました。

大学時代、ハイキング部の春合宿初日に訪れた福島県の桧枝岐(ひのえまた)にある蕎麦店の部屋で初めて囲炉裏と出会いました。
早朝、都内を出発した私たちは、電車とバスを乗り継ぎ、桧枝岐に到着したのは夕方でした。 当時、桧枝岐は福島県の中で、東京から最短距離の位置にあったにもかかわらず、これまでの合宿の中で到着までに最も時間がかかってしまいました。
キャンプ場にテントを張ったあと、行き先を告げられないまま先輩に連れて行かれ到着したのは、立派な歴史が感じられる大きな一軒家でした。 春とはいえ桧枝岐はとても寒かったですが、通された部屋に入ると、私の体は暖かさに包まれました。 初めて見た囲炉裏は、その部屋の中央にあり、天井から吊るされた大きなヤカンのお湯は「ぐつぐつ」と音を立てて沸いていました。 囲炉裏を囲んで座り、しばらくすると運ばれてきた盛り蕎麦で、この一軒家が蕎麦店と気づきました。 手打ち蕎麦に舌鼓を打ったあと、蕎麦湯と囲炉裏で沸かしたお湯で入れたお茶をいただきました。 この蕎麦店の美味しさと囲炉裏の暖かさで英気を養い、活力を得たことは言うまでもありません。

1986年に電気と電話が開通したほど、栃木県の中で最も山深い場所にあり、「最後の秘境」と言われている奥鬼怒温泉郷を妻と訪れたことがありました。 鬼怒沼湿原を往復したあと宿泊した日光沢温泉の居間でも、2度目の囲炉裏に出会いました。
私たちが訪れた9月の日光沢温泉は、夕方になるとこごえるような寒さでした。 しかし、温泉に入り疲れを癒したあと、のんびり過ごした囲炉裏のある部屋はとても暖かく、湯冷めどころかむしろ汗をかくほどポカポカしていました。
私たちと何人かの客が取り囲んだ囲炉裏では、天井から吊るされた大きなヤカンのお湯が沸騰し、串に刺した川魚が焼かれている途中でした。 焼けた川魚はサービスでごちそうになり、沸騰したしヤカンのお湯でお茶とコーヒーをいただきました。 のんびり過ごした時間は、まるで都会の騒がしさからタイムスリップしたような世界でした。

山好きの私は、久しぶりに山奥の宿にある囲炉裏を囲んで、宿の主人や何人かの客と話がしたくなりました。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です